とあるサイトにあった「公務員は起業に向かない」という主張、尖った個性・営業力・簿記の知識という3点について、そのままでは当てはまりません。30年公務員を務め、4年の準備を経て50代前半で独立した元公務員の立場からその根拠を解説します。
起業に向かないとする論調には、足で稼ぐ営業型のビジネスを前提にしているように読めるものもあるのが実情です。この記事では3つの主張を順に検証し、元公務員の起業に必要な4つの土台(覚悟・意思・お金・理解)と事業の組み方まで解説します。
「公務員は起業に向かない」とされる3つの理由は本当か?
公務員からの起業を検索すると、体験をもとに「おすすめできない」とする記事と、公務員の強みを活かせるとする解説記事の両方が見つかります。前者で挙げられる主な論点は、公平性を重んじる姿勢が個性を弱めること、営業やプレゼンの経験が少ないこと、企業会計や相場観に不慣れなことの3つです。
結論から言えば、この3点はいずれも「公務員だから起業に向かない」と断定できる根拠にはなりません。起業後に問われるのは、約束を守る信頼性と、集客の仕組みと、お金の設計だからです。3つの主張と筆者の見方を、先に表で整理します。
| 比較項目 | よく言われる主張 | 公務員起業のメリット |
|---|---|---|
| 個性・公平性 | 公平性のマインドが邪魔をして個性の強い人に勝てない | 約束・納期・法令を守る姿勢が逆に民間では希少な信用になる |
| 営業・集客 | 役所の看板が外れるとアポイントすら取れない | 今は、WEBと文章力で営業しなくて済む集客の仕組みを作れる |
| 簿記・相場観 | 企業会計を知らず、資金繰りで苦戦する | 自治体にも複式簿記の考え方が入っている。固定費を抑えれば長く事業を続けられる。 |
尖った個性がなくても元公務員の起業はできるか?
奇抜な個性がなくても、元公務員の起業は選ばれます。「誰にも嫌われない代わりに、誰からも好かれない」という公平性のマインドは、起業では不利になると言われます。しかし取引先が最終的に見るのは、約束を守るか、納期を守るか、ルールを守るかという点です。
公務員として長年身につく公平性・正確さ・法令遵守・文書作成の力は、民間やフリーランスの世界では希少な信用になります。公の制度が関わる手続きにも抵抗が少ないため、確定申告のような事務も落ち着いて進められると筆者は感じています。
もちろん、他の人にない強みを持つ方は、それを前面に出すのが近道です。ただ、個性を無理につくる必要はありません。誠実さと正確さを備え、約束を守り、仕組みとして取り組む姿勢だけでも、顧客から信頼を得る基盤になります。
営業経験がなくても元公務員は集客できるのか?
営業経験がなくても集客の道はあります。「役所の看板が外れるとアポイントすら取れない」という指摘は、飛び込み営業やテレアポで顧客を奪い合う業種が前提です。WEBで事業者を探して相見積もりを取る業種では、勝負どころは「WEBでどう発信しているか」に移ります。
公務員が得意とする「ルールブックの作成」「事務処理のフロー化」「的確な言語化」は、生成AIへの指示文を作る作業と構造が同じです。筆者はWEBサイトの運営経験が約20年(断続的な期間を含む)あり、現在はWordPressと生成AIを使って、記事制作の工程を半自動化しています。具体的には次の3点を実践しています。
- ルールを細部まで文書化し、生成AIに指示を出す
- 外注費を抑え、無料か少額のツールで基盤を整える
- WEBページの制作工程を半自動化する
また、公務員は営業と無縁という見方も一面的です。企業誘致や観光振興の担当者は、日常的に相手へ働きかけます。民間でも、総務や経理畑で働いてきた人は営業の経験がありません。営業は経験して身につくものであり、営業の経験者も最初は未経験からの出発でした。営業が苦手なら、営業しなくて済む仕組みをデスクワークで作る選択肢もあります。
簿記を知らない元公務員は資金繰りで失敗するのか?
資金繰りを左右するのは、簿記の知識よりも固定費を抑えた事業設計です。「企業会計を知らないから見積もりの組み立てで苦戦する」という指摘に、一理ある場面はあります。しかしながら、公務員は企業会計と無縁という前提は、現在の制度と合いません。
2015年1月の総務大臣通知により、全国の自治体は発生主義・複式簿記の考え方を取り入れた地方公会計を導入しました(出典:神奈川県「地方公会計制度の概要」)。官庁会計の現金主義を補完する位置づけであり、経理に関わる職員は複式簿記の考え方に触れる機会があります。
資金繰りの破綻は、数百万円を借りて店舗を構える、人を雇うといった、固定費の重い始め方で起きやすくなるのが実情です。筆者は拠点は別にするが、自宅でリモートワークをして、無料版の生成AIを軸に事業を企画運営するやり方を採っています。有料の生成AIは、セキュリティ確保やオンライン会議の制限を外す目的のサービスに絞っていまして、それは必要経費だと考えています。
簿記の知識は、会計ソフトや生成AIで後から補えます。筆者は日商簿記2級を持っているため会計処理では特にアレルギーはありませんが、資格の取得は起業の条件ではありません。ただ、知っていると経営に役立つと言えます。
💡 ワンポイントアドバイス
「公務員は起業に向かない」と断言する記事を読むときは、誰の経験に基づく話か、どの業種を想定しているかを確認しすべきです。ないのであれば根拠性の精度が下がります。足で稼ぐ営業型の業種を想定した話は、WEBで集客する事業にはそのまま当てはまらないことがあります。
ここまでの3つの検証を踏まえ、次は公務員起業に本当に必要な土台を整理します。
公務員の起業に必要な4つの土台
個性や営業力より先に整えるべきなのは、「覚悟」・「意思」・「お金」・「理解」の4つです。この4つは、真面目に組織で勤めてきた人ほど準備しやすい要素でもあります。
覚悟:退職を決めて準備を進めて辞めることができるか?
起業に失敗しやすいのは、今の職場が嫌だという理由だけで、勢いに任せて辞める場合です。筆者は退職を決意してから実際に辞めるまで、4年をかけました。当初の予定は3年でしたが、備えを厚くするために1年延ばしています。
準備の内容は、主に次の4点です。
- どの事業を主戦場にするか
- 失敗しても耐えられる事業の組み合わせ
- WEBなどの基盤をどう作るか
- 退職後の生活費と事業収支の試算
退路を断つことよりも、足元が崩れないよう備えを終えてから辞めることを「覚悟」と呼びます。準備の期間と経験を数字で並べると、次のとおりです。
30年
公務員としての勤務年数
勤め上げたうえで独立
4年
退職決意~退職の準備期間
当初想定の3年から1年延長
20年
WEBサイト運営経験
断続的な期間を含む
これらの数字は、何れも特別な才能ではなく、時間をかけて積み重ねで作れたものです。
意思:上司もマニュアルもない状態で決め続けられるか?
公務員の仕事は、法令規則や前例に沿って進みます。起業した瞬間に判断する上司や業務をするためのマニュアルどれもなくなります。
「何を商材とするか」、「毎日どういったことをして進めるか」といったあらゆることをすべて自分で決めるのが起業です。この状態を孤独で怖いと感じるなら、公務員に限らず起業は見送ったほうがよいと考えます。
逆に、誰の顔色もうかがわず、ゼロから自分の意思でつくることに自由を感じるなら、起業に向いています。
お金:生活防衛資金と低額起業をどう設計するか?
資金がなければ起業は無理だと言われますが、公務員には年数に応じた退職金や年金の仕組みがあります。これが長年公務員として頑張ってきた成果であり、起業後の大きな助けとなります。無駄遣いを避けて計画的に貯蓄してきた人なら1〜2年分の生活防衛資金は比較的容易に確保できるはずです。
加えて重要なのは、起業そのものにお金をかけないことです。事務所は自宅に置き、無料の生成AIやオープンソースのツールを使って、初期投資を抑えるといった取り組みです。収入のない初期でも生活資金に余裕があれば、成果を得るために焦って悪質な勧誘に乗ってしまう事態を避けられます。
理解:家族を納得させられるか?
公務員という安定した身分を手放すとき、最大の障壁になり、最大の味方にもなるのが家族です。家族に主に説明すべきことは次の3点です。
- なぜ辞めるのか
- 退職後の生活をどのように維持するのか
- 最悪の場合をどう想定しているのか
論理的かつ誠実に説明して理解を得るプロセスは、顧客に価値を伝える練習にもなります。ぜひ理解と支持が得られるようにしてください。
ひとり世帯の場合は家族のフォローが受けられない分、自分で責任を持つ意思と周到な準備がより一層求められます。4つの土台を自己診断できるよう、チェックリストにまとめました。
✅ 公務員が起業前に確認したい「4つの土台」チェックリスト
覚悟:事業・基盤・収支を試算する準備期間を設け、備えを終えてから退職する計画がある
意思:マニュアルがない状態で何を売るか、どうするかを自分で決めることに抵抗感がない
お金:1〜2年分の生活防衛資金があり、起業時の固定費を抑える事業設計ができている
理解:辞める理由・退職後の生活・最悪の場合の想定を家族が納得する形で説明できている
1つでも空欄があれば、退職の時期を急がず、その土台の準備に時間を充てることをお勧めします。
事業を複数持つと元公務員の起業は安定するのか?
役割の異なる複数の事業を組み合わせると、単一事業に賭ける場合より焦りを抑えやすくなります。筆者は3つの事業があります。複数の事業があれば収入が厳しい時期でも気持ちに余裕が生まれるのが利点です。ただし、順位づけをしないまま手を広げると、共倒れの危険があります。
3つの事業は、公務員時代に培った仕組み化の力と、起業後の実務で生成AIを使い込んだ経験から派生した事業です。作業の現場で生成AIを使い込んだ経験は、他の事業と重なりにくい強みになります。
公務員の起業でよくある質問
起業を考える公務員が迷いやすい点を5つのQ&Aにまとめました。
まとめ 元公務員の起業は個性より「4つの土台」で決まる
「公務員は起業に向かない」という言葉は、一面的な見方にすぎません。個性・営業力・簿記の3点は起業の入り口で必須ではなく、約束を守ること、WEBと文章力で集客の仕組みを作ること、固定費を抑えた小さな運営を整えることで補えます。「覚悟」「意思」「お金」「理解」の4つの土台は、組織で真面目に勤めてきた人ほど準備しやすいはずです。
📌 通説に流されないための4つの要点
- 個性は奇抜さではなく、約束・納期・法令を守る信頼性で補える
- 営業が苦手でもWEBと文章力で集客の仕組みを作る道がある
- 簿記は後から補え、固定費を抑えれば資金繰りの破綻は避けやすい
- 覚悟・意思・お金・理解の4つを、退職前に時間をかけて整える
辞める時期や事業の選び方は、人によって異なります。筆者の考え方を別の切り口で綴った記事もあわせてご覧ください。
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ここまでの内容で大きな部分は整理できるはずですが、個々の状況によって準備の進め方やメンタルでの構え方は変わります。公務員起業の前に迷う場合は個別にご相談ください。
30年勤めた公務員を辞めると決めてから、独立するまでに4年かけて準備しました。辞める時期、事業の選び方、家族への説明など、起業前の整理に迷う公務員の方は、状況に合わせて個別にご相談ください。

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